「平成版 釣りキチ三平」に描かれる「人間と自然」

シャガ防水工業(株)水野秀一さんからのココカラ話は

 

「釣りが大好き!海でも湖でも自然の中での釣りは何よりのストレス解消です。」

 

釣りマンガといえば「釣りキチ三平」。子どもの頃に読んだ方も多いこの名作が、平成版として再スタートしたのをご存知でしょうか? その「釣りキチ三平 平成版」に描かれた、偶然というにはあまりにピッタリくる現実との符合に、釣り人のもつ「自然を見つめる目」を感じずにはいられません。

釣りキチ三平 平成版1 地底湖のキノシリマス

釣りキチ三平 平成版1 地底湖のキノシリマス

 

 

かつて秋田県の田沢湖にのみ多数生息していたクニマス、別名キノシリマス。1940年に電力の供給を増加させるために建設された水力発電へ流入させる水量を補うため、強酸性の玉川温泉の水を田沢湖に引き込んでしまった。戦時下という状況においてのやむを得ない措置とはいえ、これによって田沢湖の水は極度の酸性に傾き、生息していた魚は全滅。田沢湖固有の種であったクニマスは絶滅したと考えられていた。

しかし、クニマスが全滅する以前の1935年に人工ふ化の実験のため、受精させた卵を各地の湖に送っていたことから、田沢湖町観光協会では1995年から97年まで懸賞金をかけてクニマスを探した。

この「釣りキチ三平 平成版」の1巻が描かれたのは2001年。そうしたクニマスにまつわるエピソードを、事実に基づいてていねいに描写。ベニザケが産卵のために川を登った際に閉じ込められた「陸封型」として変化していったのがヒメマスやクニマスである、といった、魚の分類や生態、歴史や、魚の種類の同定方法に至るまでが細かく解説されている。

物語の中では、三平が他の湖に放流されていたクニマス=キノシリマスを釣り上げ、生存を確認するのだが、これが描かれた当時もコミックスにまとめられた2002年にも、現実ではクニマスは発見されておらず、依然「絶滅種」とされていた。

ところが、2010年、クニマスのイラストを依頼されたタレントで魚類研究者のさかなクンが各地のヒメマスを取り寄せたところ、富士五湖のひとつである西湖から届いたヒメマスがクニマスの特徴を備えていることに気づき、研究グループに検証を依頼。解剖や遺伝子解析の結果、クニマスであることが判明した。絶滅したとされてから70年のときを経て、クニマスは「絶滅種」から「野生絶滅種」に指定変更された。西湖では「黒いヒメマス」として一般の釣り人によく釣り上げられ、食べられることもあったという。

この「釣りキチ三平 平成版1 地底湖のキノシリマス」には、まるで、そんな9年後の未来を予想していたような正確さで、クニマス=キノシリマスの発見に至るまでのエピソードが描かれている。放流された受精卵が生き残り、そこで自然繁殖していたというところまで同じであることには驚かされる。それだけ作者の矢口高雄さんがクニマスの生存の可能性について、シッカリと調査したという証だろう。

 

昭和の三平は、ひたすら自然に立ち向かってきた。しかし、平成の三平は違う。人間の手によって、少しずつ変わってしまった環境を、魚を釣るという行為によって冷静に見つめている。

釣りは単なるレジャーではない。自然と人間が共存する接点に赴き、人間が自然に与える影響や、自分と自然との関係に1対1で向き合うことができる。自然の豊かさや不思議をを手応えとして感じることができる釣りを通じて、「自然との付き合い方」をもう一度考える、そんな時間も、きっと必要なのだ。

 

釣りキチ三平 平成版1 地底湖のキノシリマス

矢口高雄 著

講談社 524円