サグラダ・ファミリアという「生きた建築物」

貴子デンタルクリニック、村上貴子院長からのココカラ話は…。

「旅行が大好き! スペインではアルハンブラ宮殿とサグラダ・ファミリアに観光に行きました。あの迫力には圧倒されました」

 

サグラダ・ファミリア。世界でいちばん有名な未完成の建築物です。建築家アントニ・ガウディによって設計されたバルセロナの巨大な教会は、1882年に着工してから130年以上が経った現在も、未だ建造され続けています。

存在そのものが芸術とも言えるこの建築物は、現在どうなっているのか。建築に携わる者として、その裏までを見てきた「建築家が作りたいものを実現させる男」大野浩介さんに寄稿していただきました。

サグラダ・ファミリア

サグラダ・ファミリア

「一番観たい建築は?」って聞かれて、やはり「サグラダ・ファミリア」とは答えない。あまりに有名すぎて、一応プロとしては、何だか勉強不足みたいで照れくさい。何事も格好つけでひねくれがちな僕はそう思う。もちろん、そりゃあ、観たいとは思ってたけど、地下鉄の階段を上り終える間もなく見えてきたその姿は、やっぱり少し照れくさかった。

でもやっぱり圧巻。やっぱり見とれてしまって、人にぶつかって、写真を撮るのを忘れた。四本の鐘塔はそれぞれに尖って消失するから、自分の中でパースが狂う。なんだか「いきもの」に見えた。しかしちょっと驚いたのは、なんとこの有名な正面は、正式には「裏」らしいということ。上を眺めながらぐるり「表」へ。こっちはまだ出来たばかりの最近な感じ。真新しい彫刻をあおぎながら入った礼拝堂は有機的な白い柱が生えて、彩色の照明がキラキラしてた。

でもその中でふと気づいた、その新しい「表」もキラキラの「内部」も初めてみるものだってこと。もちろん出来たてということもあるのだろうけど、「ガウディの裏」は何百回も様々を通してみてたのに、なんだか少し不思議な気分になった。

実際の所、今のサグラダ・ファミリアは、新しいデザインや技術、クリエイティビティが混在している。多分日本だったら先人の意匠をまねて、ガウディらしさを追求するはずだろうに。多くの人が「サグラダ・ファミリア=ガウディ」だから、この「新しさ」には不協和音にも感じると思った。「だからメディアには『ガウディの正面』だけなのか?」そんな意地悪を思いながら、僕は地下の資料室へ降りた。資料室では有名な逆さ吊りの模型を観ることができたし、様々な先人の「製品」にいちいち感動した。

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ところでこの資料室、奥に入ると、今なお意匠設計や製作をしている部屋があって、模型製作や、なんと3Dプリンターまであった。若い青年たちが色々と何かをつくってる。

ああ、そういうことか、と思った。

聞けばスペイン内乱でほとんどのガウディの資料は消失したそうだ。もうガウディのものはつくれないんだから止そうという意見もあったらしい。けれども、この現場は「新しいクリエイティビティ」を投入して「サグラダ・ファミリア」をつくることを選んだ。資料、情報でなく、今のクリエイティビティを。大胆ではあるけれども、やはり強いアートを生んできた国の発想だ。

不協和音に見えた様々な意匠も、成長期に飛び出す胸や生えだす毛みたいなもので、この場所が「生きてる」限りは馴染んでいくんじゃないか。

ガウディのつくった「裏」は上の句。それに応える新しいクリエイティビティ。もしかしたら、新しいクリエイティビティによって、「ガウディ=サグラダ・ファミリア」が薄れていくことで、サグラダ・ファミリアはサグラダ・ファミリアとして純化するのかもしれない。新しい造形を取り入れ、代謝を繰り返す。やはり「サグラダ・ファミリア」は「いきもの」だと思った。

 

FB1000814_460792077348113_938889878_n色調大野 浩介

DECORATIVE ART CRAFT(株)鎚絵所属。「実現屋」として、アーティストや芸術家、建築家との共作は多岐にわたる。現在JR九州の豪華寝台特急「ななつ星」の意匠部をデザイナー水戸岡鋭治氏と共に製作中。