出張版「がらり」換気口鑑賞団

タモリ倶楽部にも出演し、かのタモリさんにも「日本に一人しかいない趣味」と認定された「換気口鑑賞」の第一人者にして唯一の存在、前川ヤスタカさんに、換気口の魅力について寄稿していただきました。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA■ 三面ビルに囲まれた何もない空き地をふと見上げると、まるで空に吸い込まれていくような換気口たち。このような幻想的な風景はあなたの身近に転がっているのです。恵比寿近辺で撮影。

 

 

「私は換気口を鑑賞しています」と目の前の私が言ったとして、みなさんはピンと来るでしょうか。殆どの人は「換気口?」と怪訝そうな顔をし、「あーあれね」と答えた人は大抵違うものを頭に浮かべていることでしょう。私の鑑賞する「換気口」とは、ビルの壁面にポツポツとリズムよく配置されている換気口のことです。

一般に鑑賞対象とされる「有名な建築家の建てた家」や「超高層ビル」にはそれはありません。8階建てくらいの中層の何の変哲もないマンションやビルにこそ、それはあります。

ときには競り上がるように、ときには不規則に、ときには数えきれないほどの量で換気口は壁に並んでいます。そして、その配置、種類、壁との調和、など様々な視点からそこに素晴らしきを見出す。私のやっているのはそういうことです。

そもそも換気口は鑑賞に堪え得るようなものとして意図的に配置されたものではありません。建築に携わる人が建物を設計し、法律で決められた範囲で換気システムを整備した結果として壁に配置されて「しまう」ものです。謂わば「無意識の美」です。

この写真を見た後、是非街に出てみてください。きっと皆さんもビルの壁面の換気口がとても気になるはずです。そして、今まで「目に入り」ながら「見て」いないものがこれほど街にあふれているということに驚くことでしょう。現在のところ、日本で唯一、いや世界で唯一私しかやっていない趣味、換気口鑑賞。門戸はいつでも開いています。

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA■ 濃紺メタリックな壁に映えるレトロフューチャー感あふれる換気口。30年くらい前のCG映画の一場面にこんな感じの建物が出てきたような気がします。五反田近辺で撮影。

 

 

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■ 心の葛藤を抱えた哀しきモンスターが出てくる白黒時代のホラー映画のようなゴシック風味あふれる物件。壁の煤けた感じがいい味を出しています。目黒区内で撮影。

 

 

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■ 一般的に換気口というのは表からは見えないように、隣りの建物と接した面に配置されます。しかし時が経ち、隣りのビルが壊されコインパーキングになると、こんな素晴らしい物件が表出してくるのです。

 

 

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■ 換気口を撮影するアングルは色々と試行錯誤しましたが、やはりこのように真正面から見上げて撮るのがベストだと思います。最適な撮り方まで自分で決められるのが孤高の趣味のいいところです。

 

 

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■ 私は換気口鑑賞をよく昆虫採集に喩えます。建築鑑賞のようにそこにあることが分かって見に行くのではなく、行ってみないとどんな素晴らしい物件があるかわからないところがこの趣味の面白さです。

 

 

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■ 壁の渋い色味に、複数の種類の換気口がひし形になって繰り返しあらわれるこの配置。ヴィトンのモノグラムのようにも見えなくはない、と言ったらさすがに褒めすぎでしょうか。

 

 

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■ ドラマなどでは、スター同士が競演することでお互いにより輝くことがあります。換気口だけでは少し弱い物件も、他の物件と組み合わせて撮影することでより映えるかもしれません。

 

 

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■ 年月が経過すると必ず換気口から落ちてくる煤などの汚れ。しかし、それもわびさびと捉えれば、味に見えてきます。縦にゆらゆらと流れ落ちる黒い汚れが水墨画の滝に見えるようになれば一人前です。

 

 

 

 

前川ヤスタカ(写真・文)

1972年生。目黒区在住歴15年。一児の父。ネット中心に活動する著述家。著書に「八重歯ガール(朝日新聞出版)」。2007年春頃、電車の車窓から見える換気口配列の美に魅せられ、鑑賞・撮影を開始。

 

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ブログ:がらり~換気口鑑賞団 http://garari.jugem.jp/