『ギークマム  21世紀のママと家族のための 実験、工作、冒険アイデア』

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おとな・こども いっしょに考えるブックガイド(その1)

『ギークマム  21世紀のママと家族のための 実験、工作、冒険アイデア』
オライリー・ジャパン
ISBN 4873116368
書籍版のほか、オライリー・ジャパンのWebサイトでは電子版(PDF形式)も販売されている。書籍版より若干安価でiPadなどで読めるので、ギークなママにはこちらもお薦めである。

 

『ギークマム  21世紀のママと家族のための 実験、工作、冒険アイデア』

『ギークマム  21世紀のママと家族のための 実験、工作、冒険アイデア』

 

 

「お母さんはコンピュータや化学は苦手」。そのような先入観は、ずっと昔のものだろう。スマートフォンやタブレットの設定やアプリの使い方が、お父さんよりずっと得意なお母さんは多いし、化学系やIT分野のお仕事で活躍されている女性も多い。本書はそんな「理系女子」なお母さんが、子供たちといっしょに学びながら遊んだり、工作したり、体験したりするためのガイドブックだ。

本書のタイトルになっている「ギーク」という言葉は日本ではまだ聞き慣れない言葉だが、SF、科学、テクノロジー系の情報に強い人のこと。アメリカでは一般的に使われるようになってきた言葉で、本書はIT関連の出版社として、また「Web 2.0」という有名な言葉を作ったことで知られる、O’Reilly社から出版された書籍の翻訳版だ。内容は米国の生活に基づいたものが多いが、翻訳も丁寧で可愛いイラストもあり、読みやすい。なにしろ本物のギークたちに信頼の厚い出版社の書籍のため、きちんと「ギーク趣味人」の気持ちを分かっているし、内容も深い。

本書には80もの具体的な遊び方の提案がある。例えば、巨大な塩の結晶をつくる実験。ここまでなら、一般的な親子で楽しむ化学実験の本などにも出てきそうなものだが、本書では青みのある色を塩に着けて、まるでSFの怪物のような結晶を作ってしまう。「人喰いアメーバみたいな塩の結晶を育てよう」という実験タイトルもギーク色濃厚だ。他にも、理科の教科書に必ず掲載されていて、けれども失敗することが多い「レモン電池」の実験を、失敗せずに、さらに楽しむための方法が研究されていたり。通常の親子でやる実験の本や化学の本よりは、一歩深く、そして「おたく魂」に溢れている。

文体は子供に読ませるものではなく、まずお母さんが手順と考え方を理解した上で、子供に披露する、という流れで編まれている。準備する道具や部品のレシピはもちろん、かかる費用と時間、難易度、子供の対象年齢もきちんと記載されているので、ときどき本書をカンニングしながら進めればいいだろう。

筆者が本書の中で最も感心したのが、第三章の「IT・ゲーム編」だ。コンピュータやインターネット、ゲームの黎明期を実際に見て来た世代である母親たちが、それでは実際にその体験を子供たちにどのように伝えていけばいいのだろうか。セキュリティの問題やネットワークコミュニティと上手に子供が関わってゆくにはどうすればいいのか。その心構えについて、丁寧に解説している。
母親が思春期に、そして今だって、ずっと大切にしてきたデジタルやガジェットについての興味や知識、その楽しさをどう子供たちに伝えていったら良いのか? 本書はこれまでの母親にはなかったこの経験に向き合うときの、善き指南の書となってくれるだろう。子供の対象年齢は小学生全般で、もちろんギークなパパにも推薦したい。

昨今、「ネットの闇」であるとか「ゲームの害」であるとかいった事柄も子供を持つ親にとってはたいへん頭の痛い問題であるが、まずは親の「好きなこと」を子供たちと共有し、楽しむことが、子供たちにも問題意識を持ってもらう第一歩になるのではないだろうか。

★2014年8月20日発行 ココカラ本誌09号の掲載記事を再録しました。

 

文:大杉信雄
1965年、三重県生まれ。
良いデザイン、優れたインターフェイス、使う楽しさを与えてくれる製品を集めた提案型の販売店「アシストオン」店主。
http://www.assiston.co.jp