『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』

『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』

『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』

 

タイムトラベル+ボーイ・ミーツ・ガール。男性だけがタイムトラベルの能力を持つ一家に生まれたティム(ドーナル・グリーソン)は、ある日、魅力的な女性メアリーに出会い、恋に落ちる。タイムトラベルの能力で彼女の愛を勝ち取るも、その能力が原因で困難な選択に迫られる。

 

『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティス監督が描くイギリス版『時をかける少女』といったところ。この物語のヒロインを演じるのは『きみに読む物語』のレイチェル・マクアダムス。結婚式なのに嵐のような大雨の中、彼女の赤いドレスが印象的なこの作品では、ファッションも見どころのひとつ。もはやラブコメの女王といっても差し支えない彼女だが、今作のメアリー役でも最高の演技とキュートな笑顔が素敵だ。

 

そして主人公の父親役は、リチャード・カーティス監督の3作品全てに出演しているビル・ナイが演じている。『アンダー・ワールド』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』のデイヴィ・ジョーンズ役で知られ、最近では『アイ・フランケンシュタイン』などに出演している彼は、インタビューやレッドカーペットではメガネをずらしてかけていたり、日本の女子高生の様に横にピースサインをするお茶目なおじさまだ。

 

彼の演じる父親がこの映画のキーパーソンである。この役には名前が無く、クレジットにもただ「Dad(お父さん)」としか無いのが何となく可笑しい。ネタバレになるが、この父親は結局、癌で死んでしまう。しかし悲壮感は少ない。なぜならタイムトラベルできるから。実際、この父親はアルバムでも眺めるように何度も過去にタイムスリップして楽しんでいるようだ。

 

彼ら実力俳優に脇を固められたのが、主演のドーナル・グリーソンだ。リチャード・カーティス監督は彼を主役にキャスティングした理由を、彼の顔がユニークだからと言っている。『ハリー・ポッター』シリーズに出演していたドーナル・グリーソンは、確かにちょっと情けないような不思議な顔である。

 

彼が演じる主人公のティムはちょっと不思議な能力がある以外はごく普通の青年。むしろ引っ込み思案で頼りない彼が大人に、そして父親になっていく様を熱演している。映画の終わりごろにはそんな彼の顔も魅力のひとつに見えてくる。この作品は、間違いなく彼の代表作になるだろう。

 

この映画で監督が言わんとしているところは、人生を慈しむことや、毎日を大事に暮らしていくことなのであろう。主人公の家族が暮らすコーンウォールの海岸の風景や、ロンドンでの生活。地下鉄でJon Bodenが演奏する「How Long Will I Love You」。ラストシーンにはBen Foldsの「The Luckiest」が使われていて、とても美しい。結婚式のシーンではJimmy Fontanaの「Il Mondo」が流れる。

 

『ラブ・アクチュアリー』でもそうだったが、この監督の映画は映像も音楽もポップでワクワクする。『Mr.Bean』や『ノッティングヒルの恋人』の脚本を手掛けた監督の極上のストーリーである。しかし彼はこの作品で言いたいことを全て語ったと言い、この映画を最後に監督業を引退すると表明している。

 

リチャード・カーティス監督はインタビューでこのように語っている。

 

「いつものように、大切な家族や、友人とゆっくりと話をして過ごしたい。何気ない時間にこそ、幸せがあると言うことを味わって、人生最後を終えられたら本当に素晴らしいね。」

 

彼の言葉のとおり、家族や友人と共有したい作品である。

 

文:青木雅也
音楽、映画、料理、読書好きの歯科技工士。 無類の活字中毒。手持ち無沙汰だと中吊り広告からアルバイト情報誌、カタログギフトまで読み漁る。