「少年時代 上」
「少年時代 下」
ロバート・マキャモン:著
ヴィレッジブックス:刊
小学生の頃、ある夏、ワタシは数人の友達と近所の空き家に忍び込んだ。塀を乗り越え、勝手口の横にある換気用の小窓によじ登って家の中に入ると、そこには布団や衣類まで、家財道具の一切がぶちまけられたように散乱したままになっていた。壁には、7年前のある日を境にめくられることのなくなった、黄ばんだ日めくりカレンダーが残されており、ワタシたちは、そんな必要もないのに声を潜めて、7年前のその日、この家庭にいったい何が起こったのか、あらゆる可能性について話し合った。
違う年の夏には、友達の家の裏にある小さな空き地に、穴を掘り始めた。最初は、雑草を抜き、石ころを除けて花の種を蒔き、自分たちだけの花壇を作るつもりだったのだ。しかし、途中でたくさんの陶器のかけらが出始めて、興味は“そこに何が埋まっているのか”の方に移っていったのだ。ワタシたちは夏の太陽に肌を焼かれながら、1メートル以上もそこを掘った。埋められていたのは、以前建っていた家が解体されたときに、そのままそこに埋め捨てられた陶製の便器だった。
子供の頃、私たちの生活は、毎日が驚きや発見や、奇跡や魔法に満ちあふれていた。夏休みはうんざりするほど長く、1つの学期はそれ以上に長かった。放課後、ランドセルを家に置いてから、夕飯の時間に帰るまでの間にすら、冒険をする時間はたっぷりあった。毎日がエピソードの積み重ねだった。
この小説は、そんな少年時代の感覚を、鮮やかに蘇らせてくれる。いたずらに感傷をあおるのではなく、ひとつひとつのエピソードを積み重ねていくという描き方で、あの時代に特有の、興味が次々に移ってゆく様が、リアルに描写されているのだ。
この作品は、文春文庫で出版されて以来、長い間入手困難になっていた。どうしてこんな面白い小説がお蔵入りしてしまうんだろう。これに限らず、マキャモンの作品はどうも手に入りづらいのだが、復刊されたヴィレッジブックス版はまだ入手できるのでありがたい。ぼろぼろになったら、もう1冊買えるもんね。
(文:吉田メグミ)